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一年間ドイツでエンジニアとして働いて感じた7つのこと

日本の大手SIerからドイツの会社に出向してから1年が経ちました。29歳の時に赴任し、30歳の節目を迎えました。

現地ではIoTとブロックチェーン関連の業務に従事するエンジニアとして、最初の半年は現地に馴染み、認められるよう努力しました。後半は充実した日々を送ることができました。

近年はグローバル案件が増えているとはいえ、エンジニアが海外に赴任する例は多くありません。今回、ドイツ駐在が1年を迎えたことから、この1年間を通して感じたことをブログに書きたいと思います。所属会社のバイアスが若干あるかもしれませんが、ご了承ください。

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ドイツ人の働き方について

ドイツ人は非常に合理的に仕事をしているように感じます。論理的というよりも合理的な面が強いです。

例えば、私から3つの質問を含むメールを送っても、1つしか返答が来ないことがよくあります。「1つ答えれば残りは分かるだろう。3つ答える時間が無駄」という考え方です。合理性が働いています。

また、オフィスに長居する時間は長くありません。朝7-8時に出社し、17-18時には退社するのが一般的です。19時にオフィスに人がいるのは稀です。

「ドイツ人は全然仕事をしていない」と思われるかもしれませんが、実情は異なります。営業やコンサル、プリセールスなど顧客対応職は欧州中を移動することが多く、リモートワーク文化も根付いています。家に帰り、子供の世話をした後に再び仕事を始める人もいます。

若手は総労働時間を意識し、長時間働いた翌日は早く退社するなど調整していますが、役職が上がるにつれ、そうはいきません。上層部ほど求められる成果が大きく、プレッシャーや残業、出張が増える傾向にあります。
日本と同様の傾向ですが、ドイツ人は日本人よりも「楽しく働いている」印象を受けます。労働時間は変わらずとも、合理性を重んじる働き方が影響しているのかもしれません。

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休みが多いは本当か?

出向先の現地メンバーから年間30日の有給休暇が付与されると聞き、「さすがドイツ!休みが多いんだ」と最初は感じていました。

しかし、1年間現地で暮らしてみると、「日本にいた時と比べて、意外と休めていないのではないか?」と感じるようになりました。疑問に思い、ドイツと日本の実際の休日数をカウントしてみると、以下のようになりました。

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意外にも年間の休日数は、日本の方がドイツよりも5日間多いという結果になりました。

それでは、なぜヨーロッパ人は休みが多いと思われているのでしょうか?

一因として、一回に取る休暇期間が長いことが考えられます。ヨーロッパ人は2~3週間の長期休暇を年に2~3回取得することが多いのです。日本のように有給休暇を細かく分けて消化するのではなく、イースター休暇や夏休みの時期に長期の連続休暇を取ります。上司からも少なくとも夏休みは2週間連続で休むことが推奨されています。中には1ヶ月まるまる休む人もいます。

会社全体の休暇に対する考え方が日本とは異なるため、ヨーロッパ人は長期の休暇が取れ、「よく休む」と思われているのだと考えられます。
ただし、長期休暇中は業務が止まってしまうケースも多く、顧客の立場から見れば必ずしも便利とは言えません。ドイツには「自分の休暇で他人に迷惑をかけてしまうのは許容される」という考え方があるようです。

日本とドイツでは、休暇に対する文化やマインドセットが異なります。どちらが優れているわけではありません。日本人がドイツの会社や人々と仕事をする上では、このような事情を理解することが重要だと思います。

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ドイツ人は家族との時間を大切にする

ドイツ人にとって人生の最優先事項は、間違いなく家族です。

例えば先ほど、夏休みで1ヶ月休む人がいると述べましたが、それは子供の夏休みに合わせて取る長期休暇です。また、ある同僚が10月に2週間ほど休むと言っていましたが、理由を聞くと子供の秋休みに合わせるためでした。

このように、ドイツ人の生活は家族中心に回っており、会社もそれを理解した上で成り立っています。会社がそうした理解を示す理由は、「お互い様」の文化があるためです。上司自身も、かつて子供が小さい頃は上層部に理解を求め、子育てをしてきました。だからこそ、部下が子育てのために休暇を取ることも「お互い様」なのです。

こうした良い連鎖が社会全体にあるため、長期休暇を取り子育てする文化が育まれているのだと思います。

私はこの「お互い様」文化は素晴らしいと感じています。日本でも最近は改善されつつありますが、お互いを許容し合うことで、よりマイルドな社会が醸成されることを願っています。

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経済が順調な理由

ヨーロッパにおいて経済面でドイツは順調と言われています。その順調な経済を支えているのが、「車産業」です。

国土の面積は日本とあまり変わりませんが、ドイツでは車社会が発展する要因がいくつかあると考えられます。

第一に、都市が分散していることが挙げられます。日本の都市は東京に代表されるように一極集中していますが、ドイツの主要都市(ベルリン、ハンブルク、ミュンヘンなど)は国土に分散しています。ドイツ人は都市間の移動に車を利用します。

第二に、アウトバーンの存在です。ドイツには一部区間で制限速度のない高速道路があり、最高時速120kmなど高速走行が可能です。都市間移動では車が最速の移動手段となります。

第三に、カンパニーカー制度があげられます。比較的若い年次から従業員に会社車が支給され、私用でも使用できます。自家用車を持たずにカンパニーカーのみの人も多く、出世してグレードの高い車に乗ることがステータスになっています。

第四に、電車が頻繁に遅れる(笑)ことが挙げられます。ドイツの電車は平均6分の遅れがあり、遅延や運休も多いため、重要な用件には電車を使えません。そのため車が主要な移動手段となっています。

このようにドイツの経済は車産業を中心に回っており、国がその発展を後押しする施策を打ち出しています。特定産業への肩入れには批判もあるかもしれませんが、日本も成長戦略として同様の政策を検討してもよいのではないでしょうか。

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多様な環境の中で働くこと

日本にいた頃に比べ、ドイツでは圧倒的な多様性を感じています。私が所属するチームはクロスカントリーチームで、ドイツ人に加えイギリス人、ベルギー人、デンマーク人、マレーシア人、インド人、アフガニスタン人、日本人(私)と多国籍で構成されています。

メンバーのバックグラウンドが異なるため、「○○さんならこうするだろう」といった予測は当てにならず、役割分担と担当者を明確化することに時間を割いています。

日本人同士なら言葉にしなくても相手の意図を汲み取れることが多く、ある意味で仕事がしやすいですが、グローバルな仕事ではそうはいきません。

業種によって事情は異なるでしょうが、多様性のある許容力のある社会の方が、良いアイデアが生まれやすく、人材確保の面でも有利です。日本がグローバル社会で勝ち残るには、多様性を受け入れ、組織する力が不可欠だと感じています。

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日本人のバリューとは(出向者のバリューとは)

役職によって求められるバリューは異なりますが、30歳で日本での役職も下から2番目の私に求められるバリューは以下のようなものです。

1. 日本のビジネス状況やソリューションを紹介し、現地ビジネスを活性化する
2. 現地会社の取り組みを日本に紹介し、コラボレーションの機会を創出する
3. 日本発のR&D予算の取り組みなどに対して窓口となり、予算獲得をサポートする
4. 日系企業に対してプリセールスを行う
5. 現地でしかできない経験を通じて、グローバル人材として将来活躍する

特に1、2、3は出向者でないと難しい取り組みであり、重要な役割となります。しかし、その仕事が与えられるわけではなく、自ら積極的にその機会を求めて動く必要があります。

その際、現地会社への貢献を考えて行動できるかが重要です。なぜなら、その視点がないと現地の人から「スパイ」のように見られ、情報を教えてもらえなくなるからです。

また、本社社員の視点から発言するのも控えるべきです。若い社員が本社社員を気取り、偉そうに振る舞えば、現地メンバーに不快感を与えてしまいます。

私は現地メンバーと会話する際、日本の本社のことを「ヘッドクォーター」と呼ばず、「○○JAPAN」と呼ぶよう心がけています。日本は世界に展開しているリージョンの1つに過ぎないという意識を持つことが大切です。

そうした意識で仕事をすれば、次第に信頼を得られ、バリューを発揮できるようになると考えています。

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日本人はグローバルに活躍できそうか

日本人が現地の人に比べて劣っているわけではありません。

まず、私が従事するIT業界は日進月歩で新しい技術が次々と登場しますが、そうした新しいテクノロジーのキャッチアップは日本人の方が得意だと感じています。現地の人はジョブディスクリプションが明確なため、特定の技術には詳しいものの、横断的な総合スキルを身に付けたり、新しい技術を習得するハードルが高いようです。

次に、納期厳守、高品質、適切なドキュメンテーション、メールの返信など、基本的なスキルは日本人の強みであり、グローバルでも通用するスキルだと考えています。

加えて、相手の立場に立って行間を読み取り行動するなど、思いやりのある対応も日本人は得意としているように思います。

こうしたソフトスキルと技術力を兼ね備えた日本人であれば、多少の英語力不足があっても活躍できるはずです。

もちろん英語力は高いに越したことはありませんが、海外では英語ができることが強みとはならず、他の強みが必要となります(日本国内では英語力は大きな強みになります)。特にIT業界では、英語が得意な人ばかりではありません。

ある程度の英語力があり、アピールを続ければ、若手のうちから海外駐在のチャンスがあると考えています。

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まとめ

1年間ドイツで過ごし、とても貴重な経験ができたと感じています。

日本にいた時よりも、自ら考え行動し、間違えれば修正するという裁量を持って実行できるようになりました。扱う技術領域が変わったことは個人的にチャレンジではありましたが、ドイツに駐在し、さまざまな国の人々と働く経験(しかも20代の若さで)は、私の価値観に多大な影響を与えました。この機会を与えてくれた会社に感謝の念しかありません。

ドイツ語が話せない私には辛い部分もありました(役所対応など)。しかし、周りからたくさんのサポートを受けながら、とても楽しい1年を過ごすことができました。また、他国との距離が近いため、出張やプライベートで様々な国を訪れ、国ごとの価値観や文化に触れられたのも貴重な経験でした。

まだ1年の赴任期間が残っているので、終了する雰囲気を出したくはありませんが、仮にそう受け取られてしまったらお詫び申し上げます。赴任終了後には、2年間の思いと気持ちの変化、そして今後の人生設計について、まとめたいと考えています。

本日はこの辺りで失礼します。ありがとうございました。

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